便利に毒されし者の北海道おっちょこちょいスケッチ旅行・2002年

上陸後、高速で旭川へ

8月9~10日・午前

船室では、勝手に道案内をお願いしたCBRの方と、キャンセル待ち手続きの時に話しかけてくれた方(バイクはシェルパというオフロード車)とが、たまたま船室の近くに荷物を置いていたので、無事な旅を祈念してビールで乾杯した。
勝手に道案内をお願いしたCBRの方には、これまた一方的に心の中でお礼を述べておいた。
航行時間が短い船旅なので、ビールの量は控えめにしておいた。本当だってば。

出航後、一時間も経たないうちに照明が落ち、船室全体的に仮眠を取る雰囲気に。
ライダー同士の会話も終わらせ、到着までの3時間ほど、ザコ寝の仮眠を取った。前夜もあまり寝ていなかったし、久々の長距離走行で疲れていたので、ビールの威力とは無関係に、熟睡した。
間もなく到着という頃、お二方のどちらかに起こして貰った気がするが、実状は良く覚えていない。(汗)

フェリーは、ほぼダイヤ通り午前2時に函館港に着いた。

船旅を共にした我々は、フェリーの待合所で、おのおの飲み物を飲みながらルートチェックなどした。僕は、通る予定の国道を携帯電話にメモし、出発に備えた。

一応補足しておくが、乗船時間が短いためか、荷物は積んだままでOKだったので、荷物の積み直しはしなかった。

船旅を共にしたお二人。
船旅を共にしたお二人。
右のCBRの方、靴の補修に使ったガムテープを有り難うございました。函館の待合所にて。
注)今のところ、左の方に承諾を得られたので、右の方だけ画像をぼかしてあります。(恐縮)ご連絡、有り難うございました。(感謝)

「上手く乗れて、上陸できたのは良いけど、この時間にどうしろって言うんだろうねえ」と、他のライダーさんたちは口々に言い、「朝までここでゆっくりしていこう」などと話し合っていたが、「僕は、一刻も早く目的地へ着きたいので、お先に失礼しますね」と、短い船旅を共にしたお二方に告げ、ターミナルを離れることにした。

函館は、雨が上がったばかりという感じで、何となくまた降り出しそうな気がしたので、少しでも走っておきたかったのである。とにかく、ツーリングに来ていて、無意味に留まっていると言うことも耐え難いし、夜中なら渋滞もお巡りさんも気にせず、安心して走れる……という計算もあったが、今にして思えば「早く北海道を走りたい」と言う気持ちを抑えきれなかったのかも知れない。

シェルパの方がデジタルカメラを持ち出してきたので、僕も負けずに取り出し、写真を撮り合った。
写真を撮り終えると、お二方に「良い旅を!」と挨拶し、函館港を後にした。
この旅の、最初のお別れらしいお別れだったと言えるだろう。

「この後も、こんな風に出会いと別れを繰り返して、旅が続くのだろうな……」と、少しだけ感傷に浸りながら、国道5号線をどんどん北上した。

湧かない実感と早速の反省

それにしても……。
寝ている間に函館に到着し、夜の国道を走っていると、北海道の道を走っているという実感が湧いて来ない。確かに、道は広い気がするし、今まで見たことのない「路肩から信号機ぐらいの高さに立っている宙に浮かぶチカチカ光る下向き矢印(降雪時に路肩と道路の境目を示すための物か? 旅行記トップの画像参照)」はあるし、夜なりに独特の光景ではあるが……。

と、そんなことを思いながら走行していると、とうとう降り出したよ、雨が!
前述のように、僕は少々の雨程度なら、滅多なことでレインウエアは着ない。夏場ともなれば、冷え込むこともないし、雨が上がりさえすれば、走行しているうちに間もなく勝手に乾く。
それはともかく、着替えるのは面倒くさい! 着たら着たで蒸れてきて不快! だから着ないのだ。
このときの僕も、これまでにならってレインウエアを着ないまま、しばらくの間走行を続けていたが、気がつくと、函館港から着ていたフライトジャケットはしたたか濡れており、雨水のしみ込んだところが異様に冷え込んできた。下半身のアーミーパンツ(正式にはヘリクルー・パンツ。レプリカだと思う)も、昼間に濡らしたどころではなく濡れていた。
ファミリーレストランにでも入って、紅茶でも飲んでひと休みして、その後キチンとレインウエアを着ようと思い、そのまましばらく走り続けたが、行けども行けどもファミリーレストランなどありそうな気配すらない。関東なら、しばらく走っていれば一件くらいは見つかりますよね? ところが、広大な大地・北海道では、そうは行かなかったのである。

しばらく行くとローソンを発見。残っているレシートによると、八雲町という所だったようだ。ファミリーレストランは諦めて、ミルクティーとレンジでチンするカルツォーネチーズフォンデュパイを購入しつつ、店員さんに「ファミリーレストランとか、どれくらい先に行けばありますかねえ?」と聞くと、「札幌とかまで行かないと無いですよ」との返事。溜息つきつつ、未だ霧雨の降るバイクの傍らで、パッキングの中から渋々レインウエアをとりだし、着用した。
「本来は服が濡れないように着るのものなのになあ……」と思いつつ、濡れたジャケットの上から着用したレインウエアの着心地は最悪であった。
どうせ濡れているからと思い、下半身はそのままで出発したが、これが大失敗であった。ペラペラの布地のアーミーパンツにこの雨、この気温では、昼間の灼熱地獄を演出したエンジンの高熱をもってしても、激しく冷え込む。
これはどエラい寒さだ。身体がガクガク震えるほどだ。今が八月だなんて、とても信じられない。
出発前の情報収集で、「単車だと夏でも北海道は寒い」と聞いていたが、「8月なのだから、そこまで寒いわけなかろう」と思い、選択したパンツだったが、とりあえず選択ミスであり、濡らしてしまったのが大バカだった。
「ああ、甘く見ていたなあ」と反省しつつも、「寒い方が眠くならなくて良いじゃないか」などと、意味不明なことを考えながら、ガタガタ震えながら国道をひた走った。

函館港で休憩し、降りそうだからレインウエアを……と、気持ちに余裕を持っていれば、こんな形で北海道の気候を体感しなくても済んだだろう。あんな寒い思いをしながら、よく風邪をひかなかったものだ。
僕のバカもさておき、疲れてくると、人間誰しも判断力が鈍ってくる。
ライダー、ドライバーの皆さん、体力の温存にはくれぐれも留意し、休憩は積極的に取りましょう! そうでないと、命取りになりますよお。(疲れているのに早々に出発した僕は本格的なバカ)

高速道路を選択

寒さに震えながら走行していると、やがて夜が明け、住民の方々からすればあまり嬉しくなかったであろう事情で全国的な知名度を得た長万部に差し掛かった。「ああ、ここがあのオシャマンベかあ」と思いながら走っていると、雨もほとんどやんできた。
やがて、ようやく見慣れてきた頭上の「チカチカ下向き矢印」越しに、高速道路の標識が目に入った。
単車を停め、4年前に購入した全国地図(マップル)をチェックすると、建設中とあるが、今はどうやら完成しているようだ。標識には間もなく高速の入り口と書かれている。これに乗って終点まで行くと、旭川に出る。
ルートを見ると海岸線に沿って造られており、とっとと通過したい札幌や旭川へは、随分遠回りな感じだ。最短距離を取りたい僕からすれば、北海道の道路事情を考えると高速道路を通るのがどれほど得策なのか分からなかったが、例えば100kmで走ったとして、一般道で50kmオーバーで天文学的数値の反則金を払うよりは、高速に入ってギリギリセーフか、笑い話になる程度の反則金を払う方が安全だ……と思えた。
この旅は、どこまでもどこまでも安全でなくてはならないのだ。スケッチの一枚も描かないうちにトラブルにあってたまるか。
「よし、高速だ!」と、意を決し、僕は入り口へと突入した。

有珠山P.A.にてカメラ付携帯電話で撮影。我ながら疲れた顔をしている。
有珠山P.A.にてカメラ付携帯電話で撮影。
我ながら疲れた顔をしている。この後も夜まで走り続けた。

高速に入って良かったのは、休憩し、一息入れるポイントを見つけやすくなったことだった。そう、S.A.、P.A.の存在である。特にS.A.なら、食事で滋養を補いつつ休憩をとれる。ついでに煙草も喫える。
食事を摂ろうと、とあるS.A.に入った僕は、普段なら滅多に食べないラーメンを食べた。寒かったので温まりたかったのと、とりあえず北海道らしいものを食べられるという、2つの理由からだった。

途中に、目的地の一つである洞爺湖や、最終夜にネットで知り合った知人と会うはずの札幌を通過し、「ああ、ここら辺がそうなんだあ」と、思いながら走行した。
アーミーパンツも脱水機から取り出したぐらいの湿り具合になってきたが、寒さは相変わらず。登別の出口が目に入ったときは、普段は温泉嫌いだと言っているクセに「ここで降りて温泉にでも……」などと考えるほどだった(結局入らなかったけど)。
と、景色もロクに見ずに、出口の標識の地名にばかり感動する僕であった。

某S.A.にて食べた塩ラーメン(500円くらいだったかなあ)。
某S.A.にて食べた塩ラーメン(500円くらいだったかなあ)。
体は温まったが味の方は……。そもそも僕は、あまりラーメンは好んで食べない。

半分くらいレイアウトの都合だが、単車で高速を走っている時の感じについてリポートしてみよう。
高速に入ると、ライダーが最初に感じるのは、風圧だろう。一般道では出さないスピードで走るわけだから、剥き出しの体に非日常的な風圧を感じる。速度を上げれば上げるほど、風圧は強くなる。当然だ。
ただし、バイクの性能や、交通道徳などの問題で、どこまでも風圧の変化を感じ続けるわけにはいかない。これも当然だ。
視覚的には、速度を上げるほど視野は狭くなると言われているが、これも慣れの問題はあると思う。キャリアや、走行時間によって、速度に視覚が順応してくる部分はある。これを過信しては不味いが、順応するのは事実だ。まあ、その辺は車も同じであろう。
触覚、視覚と来たら、味覚、嗅覚はさておいて聴覚だ。最初は、やはりエンジン音。加速するにつれ、これまた非日常的なうなりを上げる。それに伴って、自分自身も興奮と緊張を禁じ得ないのも事実だ。
ところが、ギアがトップに入り、エンジンの回転が日常的な範囲に来ると、ヘルメットにある微妙な凹凸によって生じる風切り音によって、エンジン音はかき消されてしまう。聴覚は、90km/hを越えたくらいから「びょぉおおぉうぅぅ……」という風切り音に支配されていくのだ。だが、風圧もそうであるように、これもやがては気にならなくなる。
意外に思う人も多いかも知れないが、高速での走行を続け、最も僕が強く感じるのは、ズバリ『静けさ』なのだ。
触覚も視覚も聴覚も、やがて無感覚になっていく高速を単車で走っている時間は、とても静粛な時間なのだ。
ある程度の体に感じる圧力や、ぼんやりと音が聞こえている感じからして、水の中に潜っているときの感覚とも似ているだろうか。

サロマ湖に着くまでにたどったルート。約700km。(溜息)
サロマ湖に着くまでにたどったルート。約700km。(溜息)
もっともこれは、ライダーによって、乗っているバイクによって感じ方は違うかも知れないが、僕にとっての高速道路は、スピード感もスリルもない、静謐な空間なのだ(安全運転だし)。
道路の上での単車はやはり少数派。これを読む方の中に、バイクで高速に入ったことのある方は少ないだろう。僕のリポートで、少しくらいはイメージが湧いただろうか。

などと説明しているうちに、旭川に着いた。
高速に入ってから旭川で降りるまでのことを、僕はほとんど覚えていない。景色の変化はおろか、寒かったかどうかさえも良く覚えていないのである。夢うつつ状態で走行していたためだろうか……。(汗)

結局ここまで、視覚的な北海道らしさは、あまり体感できていない僕であった。

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