13日の金曜美術館

書庫

電車の中で読む本

序文の前に

 さて、これ、この文章、この小冊子、これはいったい何か。これは、お忙しい折、せっかく遠いところをご足労下さった皆々様に対しての、せめてものお礼、サービス、おまけ、そんな感じのものである。主にお帰りの際の電車の中での暇潰しの助けになればと思って、こんなものをお渡ししようと思い付いたのである。

 そして、せっかく読んでもらえるならば、いろんな方に申し上げたいことを文章という形にして皆さんに提示しよう。ついでに、今回の個展を開催するに当たって考えていたこと、プロセス、主旨等についてもフォローしておこう、等とも思った訳である。これら二つが、この小冊子を形成するに当たっての主たる理由という訳である。

 さて、内容はというと、先に述べた、この小冊子のできる原因に当たる大事な部分以外は、この展示とは一切関係のない、くーだらない、何のためにもならない内容のものがほとんどであることを、予めお断りしておこう。読んでいただくに当たって、最も重要な内容を筆頭に、順々にどんどんどうでもいい内容になっていく訳である。だから、皆さんの降りるべき駅に着いたら、読むのを止めて駅のゴミ箱に捨てて下さってもちっとも構わないのである(銀座駅はご勘弁を)。

 また、僕の方としても、1993年11月から翌年の2月まで、パソコンを用いての自宅での仕事の合間に、忙しさの余りお留守になっていた個展の製作活動への士気をかき立てるためや、タイトなスケジュールの自宅での作業をこなす上での気分転換のためなど、自分本意の事情でやっていた部分も大きいので、全部読んで欲しいなんてちっとも思っていないし、みなさんの長短様々な帰りの電車に乗っている時間を考慮して編集してあるつもりなので、後の方の内容に、何か面白いことが書いてあるのではないか? とか、僕の隠された人間性を垣間見れるのではないか? などと思ってはいけない(誰も思わないか)。
そう、これは、単なるおまけなのだ。だから、ご覧の通り字も小さいし、文字でびっしり。文章自体もあまりよく練られていない。読んでもらおうとするサービス精神みたいなものにはことごとく欠けた読み物なのであり、ビックリマンチョコや、仮面ライダースナックではないのだから、おまけの方に過大な期待は無用である。
 もし、よんでいるあなたがうちに帰ってまで読んでいるなら、あなたはヒマ人だ!! そんな暇があったら、お部屋の片づけでもしなさい!

序 文

 やっと、やっと、やっとのことで個展を開くことが出来た。
 1992年の春頃、十五人の女性像の展示をやろうと思い立ち、それから月日の経つことはや5年。ようやくこうして実現の運びとなった次第である。
 まず始めに、今回の個展にあたって、一番大勢のモデルさんを紹介してくださった渋谷さん、そして、貴重な時間を割いてカメラマンに、一部写真の現像にと、力を貸してくれた弟の宏明、DM制作にあたってご協力下さった森さん、困ったときに種々にわたってお世話になった方々、そして、何よりも誰よりも、僕何かのために安いお礼でポーズをとってくれたモデルさんに(あと、それを許してくれたモデルさんの彼氏にあたる方々も)、そして最後に、ご来場くださった方々に、この場を借りて深く深くお礼を申し上げます。

 また、モデルさんの何人かに、僕がポーズの日をうっかり忘れていたばかりに、国分寺駅にほったらかしにしてしまったり、同じ理由で自宅に待ち続けさせ、せっかくの週末を台無しにさせてしまったり、1回目のポーズから2回目のポーズまでの間に、半年以上の間隔を空けてしまったがために、夏にポーズやコスチュームを決め、2回目に来てもらったのが冬で寒い思いをさせてしまったり(逆の場合もありました)、およそ人にものを頼んだ人間のすることとは思えないような仕打ちをしてしまう場合が幾例かあった。

 もともとだらしない性格の上に、安定した収入が無く、生活が不規則で……といったところが主たる原因であるが、それもこれも、いっぺんに十数人ものモデルさんを、失礼の無いように相手に出来るだけの器量の無かった自分のだらしなさのせいである。本当に本当に迷惑をかけてしまったモデルさん方、申し訳ありませんでした。僕がアホでした。頭蓋骨がむき出しになるくらい頭を擦りつけて謝りたい思いです。

 それはそれとして、僕自身がだらしないことを第一としても、外的な要因として、制作を進めていく上での障害は、余りにも多かった。

 長引く不況、それに伴う殺人的な仕事の量に不相応な微々たる賃金…など、本来すべき事をしているはずなのに、出るべき結果のでない事が余りにも多かった。それすらも僕自身の日頃の行いが悪いのはさておいても、僕自身として責任を負いきれない障害も多かったということも、それはそれで事実であったのである。
 まあ、思うとおりにならないのが人生だし、思うとおりになる人生を望んでいるわけでもないが、私こと梅下伸介は、制作に、仕事に精進いたしますので、今後ともどうか宜しくお引き立てのほどを。

次を読む

『電車の中で読む本』の目次に戻る

書庫トップへ戻る
館内案内へ戻る