食事を終えた僕は、再び国道5号線をひた走る。
雨足も弱まることなく降り続いているので、無闇にスピードを出すようなことは控え、安全なライディングを心がけた。
安全に急ごうと思うと、高速道路に入るのも一つの選択肢だが、目的地のことを考えると、あまり効率的でないし、台風が接近してきて風が強くなってはとても危険なので、一般道をそのまま走り続けた。
やがて5号線から国道36号線へ。何故だか、この頃はいくらか雨足も弱まっていた。
室蘭を通り過ぎ、あと20キロくらいで苫小牧……という辺りだっただろうか。渋滞気味だったために速度を落とし気味に走っていた僕の目に、茶色く塗った幅30~40cmくらいの板に、黄色いペンキで『↑ライダーハウス 500円』と書かれた看板が目に入った。
「そうか。ライダーハウスという選択肢もあるか……」と思った僕は、ちょっと様子だけでも見てみようかという気になった。今夜は台風を凌げる宿を探すことが最優先であり、それが早く見つかるならそれに越したことはないし、それが良好なライダーハウスであり、他に楽しく過ごせそうなライダーさんが泊まっているようなら、それ以上のことはない。
僕は国道36号から左へ、内陸の方へと進路を変えた。
同じ看板を目印に、どんどん国道から離れ、僕はライダーハウスへと向かった。
……しかし、なかなか遠い。目印の看板も10個以上を数えた。ちょっと様子を見るという感じの距離では無かったようだ。
周囲の景色も寂しくなっていく。本当に大丈夫なのだろうか? ……と、焦りつつもどうにか「ここがライダーハウス」という看板にたどり着いた。周囲に人家も少ない寂しげな所であった。
見渡すと、広い敷地の奥の方に大きめの二階建てがあり、その手前に用済みになったとおぼしきバスが置かれている。
「アレがそうなのか?」と、僕は思い、単車を乗り入れた。すると!
猟にでも使いそうな立派な10匹以上の犬(品種はよく分からなかった)が、激しく吠え立てながら僕の方へ駆け寄ってきた。
「うわ、何だこれは!」それほど犬が苦手というわけではないのだが、この数でこの剣幕の犬たちに吠え立てられては、誰だってビビる。
敷地内は砂利で、単車のスタンドも立たなさそうだし、こうも犬に取り囲まれては、単車からも降りるに降りられず、僕はオロオロするしかなかった。
ガブッ!と、そのうちの一匹が、僕のふくらはぎ辺りに噛み付いた。
「ぐわ」と僕はヘルメットの中で叫んだが、穿いていたレインウエアとジーンズのお陰で、大したダメージでもなく、それほど痛くもなかった。
と、噛み付かせたままにしておくわけにもいかないので、振り払おうと足をバタバタさせていると、奥の二階建てから40代半ばくらいの男性が駆け寄ってきた。ライダーハウスを経営している人のようだった。
「コラ! シッシッ!」と、激しく吠えまくる犬たちを追い払おうとしているが、犬たちはなかなか鎮まらない。しまいには管理者さんは、何頭かの犬を蹴飛ばしたりなどして犬たちを追い払った。
「いやあ、済みませんねえ。ウチはニワトリを飼っているんですが、キツネにやられるんで犬を飼ってるんですよ」
少々ホッとしながら、「いえいえ、そうでしたか。ともあれ、ちょっと様子を見せて貰っていいですか?」と、僕は言った。
思った通り、ライダーハウスとして使っているのが用済みになったバスの車両のようであった。シートでも敷いて寝袋に収まれば寝られないこともない気がするが、バスは傾いているし、入り口近くにはビールなどの缶が山積みになっていて、犬のであろう動物の臭いの混じった心地よくない臭いがプンプン漂っていた。
風呂や買い出しなどについて、一応は聞いてみたが、ちょっと僕には泊まろうという気にはなれなかった。
「申し訳ありませんが、今日は台風が来るそうですし、他を当たらせてください」と、僕は言うと挨拶もそこそこにその場を去った。
犬が好きで、臭いが気にならなくて、2~3人での宿泊をするなら……アリのライダーハウスと言えるところでした(いるだろうかそんな人)。
いずれにせよ、出来事と印象を正直に書いたのが僕の純粋な気持ちであって、批判を書いているつもりではないことを付記しておきたい。(汗)