便利に毒されし者の北海道おっちょこちょいスケッチ旅行・2002年

オロロンラインのトラブル

8月14日・天候回復、有頂天のライディング

この日のルート。
この日のルート。この日は良く走った。

稚内の市街地を抜け、補助標識に従って道道106号線へ入った。景観も、サロベツ原野へと続くことを暗示するかのように荒涼とした雰囲気になっていく。
海岸沿いにさしかかると、ああ、これがオロロンラインというヤツかあ、という雰囲気が漂い始める。緩いカーブすら少なく、実に気持ちよく走れる。
オロロンとは、オロロン鳥(チドリ目ウミスズメ科のウミガラスの別称で、「オロロロロ……」という鳴き声に由来するとか……)の事で、この辺りに生息している鳥らしい。ネットで調べたところ、ペンギンのようなカラーリングで、実際ペンギンのように直立してよちよち歩くらしい。絶滅危惧種だということもあってか、あるいは景色ばかり見ていたためか、それらしい鳥は見なかったなあ。

見よ! これがオロロンラインだ!
見よ! これがオロロンラインだ!

この旅行記を読んできて、お気づきの方もあろうかと思うが、最初から僕は今回の旅行をHPにして紹介しようというハラがあって旅行をし、写真も撮ってきた。とはいえ、気持ちに余裕がないときなどは撮影する気にはなれないため、文字ばかりのレイアウトになってしまうし、この時のようにウキウキ状態の時は、撮影に夢中になり画像が豊富になったりもする。そんなわけで、ここでは画像も沢山ご覧頂こう。

間もなく、先ほどまで雨もパラつかせていた雲が少しずつ姿を消し、柔らかい日差しが降り注いできた。
おおよそ南西へ下っていく僕からすれば、右手が海で左手がサロベツ原野となる。
原野という名前からして、平坦な草地が地平線の限りまで続いていて……という感じかと思っていたが、意外と起伏に富んでいたというのが、僕の印象である。
走行中にチラリチラリと景観を楽しんだが、一瞬とはいえ目に入る夏草の緑が眩しい。
夏のツーリングなのだから、らしい写真を……と思っていたところがあったためか、海沿いや道の写真ばかり撮ってしまい、サロベツ原野の方はほとんど撮らなかったのは大失敗であった。

走行中にデジカメを取り出して一枚。
走行中にデジカメを取り出して一枚。(マネしてはいけません)
走行中にもう一枚。
走行中にもう一枚。(本当にマネしてはいけません)
こんな風に、まっすぐな道が延々と続く。
こんな風に、まっすぐな道が延々と続く。
同じ位置から、振り返ってもう一枚。
同じ位置から、振り返ってもう一枚。

ライダーハウスのお二人から、「オロロンラインを走るときは、お巡りさんに注意して」と聞いていたので、スピードを出したい気分を抑えたが、こんなに気持ちよさげな道をライディングしていて、天候も回復してくれば、気分の高揚は抑えきれるものではない。天気もどんどん良くなっていく感じだ。
すれ違うライダーさんたちのピースサインも、アクションが大きい。それにつられるようにして、僕もすれ違うライダーさんたちに大きく手を振ってそれに応えた。

ライディングを楽しみつつも、「おっ、ここはいいぞ」と思うと単車を停めて、デジカメを取り出し……そんなことを繰り返した。
すっかりいい気分になっていたからであり、旅行記をHPに載せようと思っていたからやっていた事だっただけなのだが、それが後で僕の北海道旅行に大きな変化をもたらすことになろうとは……。

利尻島の利尻山(多分)をバックに、愛車を撮影。
利尻島の利尻山(多分)をバックに、愛車を撮影。

単車を停めて撮るだけでなく、僕は走行中の撮影も試みた。道は真っ直ぐだから、それほど危険はないかと思ったからでもあり、単車の旅のスピード感のある写真を撮りたかったからでもある。
実を言うと、前に乗っていた単車の時に、カーブの多い九州の国道で「レンズ付きフィルム」を用いて走行中の撮影をしたこともあったので(後日分で一部紹介します)、ここなら楽勝だと思ったからでもあった。しかし実際は、レンズ付きフィルムよりは操作が複雑で、冬用のグローブをつけた手での操作には非常に手こずり、そのせいで折角の景観を楽しめなかったりもしたので、やはりこういうことはすべきではないなあと、今にしてみれば思う。
苦心の挙げ句、撮れた写真が上の二点程度のものだから、尚更だ。お粗末……。(溜息)

途中、ちょっとした休憩所兼駐車場みたいな場所があったので、そこに停まって更に撮影を。すると、車で来ていたカップルの男性が「すみません。一枚お願いできますか?」と声をかけ、僕にデジカメを差し出した。今のご時世、旅行にはデジカメなんだなあ。出会う人のほとんどがデジカメを持っているということは、それだけパソコンが普及しているということだ。

休憩所に車を泊めいていたカップルに撮って貰ったので、ぎこちない作り笑いしている。
休憩所に車を泊めいていたカップルに撮って貰ったので、ぎこちない作り笑いしている。
「ハイ、いいですよ。これ……押せばいいんですか?」と、僕は愛想良く利尻山をバックにお二人を撮影した。
「じゃあ、撮りましょうか?」と男性は言い、僕のデジカメでも1枚撮ってくれた。一人旅だと、自分が写っている写真を撮るのが、なかなかホネだ。僕は自分が写っている写真を見るのがあまり好きではないので構わないのだが、少しくらいは自分の写真もあって良いかとは思い、「お願いします。押すだけで大丈夫です」と言い、撮影をお願いした。撮って貰うのにムスッとした顔もしていられないので、無理矢理作り笑いを浮かべた。

ラブラブ状態のカップル相手に、長話も不粋だと思った僕は、簡単に挨拶をして、駐車場を後にした。

オロロンラインの終わり頃にあった、風力発電施設。
オロロンラインの終わり頃にあった、風力発電施設。景観が台無しという声も多いらしいが、個人的には圧巻だと思ったので、撮影した。
その後も、景観を楽しみ、撮影をし……と、好天に浮かれていた僕は、走行距離計(ガソリンの給油の度にリセットする、トリップメーターと呼ばれる走行距離計)の数値が300kmを越えているのに気が付いた。
「うわ、すごい。こんなに僕の単車は燃費が良かったっけなあ……って、こりゃ不味いぞ!」
給油するのをすっかり忘れていたのに気付いた僕は、正気に戻り青くなった。平素の生活圏で乗っている場合は、200kmも走れば、給油する場所を探すのが普通なのだ。
まあ、忘れていたとは言っても、オロロンラインに入ってからというもの、ガソリンスタンド1軒もなかったからでもあるのだが、オロロンラインがこのあとどれくらい続くのかはおろか、どれくらい先にガソリンスタンドがあるかも分からない僕は、焦らずにいられなかった。
僕の単車のガソリンタンクは18リットル入ることになっている。日常の燃費は、およそ19km/リットルなので、完全に満タンの状態からなら約340kmくらいは走れるはずだった。信号が少なく、平坦な道が続く北海道を走っているとは言え、5万キロを走っている単車だし、本当にそこまでもつものではないだろう。

とうとう失速

「おお、330kmを越えた……。ここまでもつとは思わなかったなあ」と、走り続けるうちに思ったが、そんな事に感心している場合ではない。
行く先に、休憩所の駐車場が見え、その角が丁字路になっていることに気付き、ひょっとすると市街地が近いのでは……と思ったときに、僕の単車は急激に失速した。
「ああ……ダメだったか……」
すっかり覚悟ができていたためか、それほどガックリ来てはいなかった。まだ昼間だし、何とでもしようはあるだろうという楽観もあったかもしれない。僕はとりあえず、100mほど先にある駐車場まで単車を運び、どうしたものかを考えた。
休憩所に建物があったが、無人の施設で、ガソリンスタンドの手がかりになるようなものは何もなかった。
単車に戻った僕は、「あ! ホクレンのスタンプを押すカード(……と便宜上呼んでいるが、実際は8つ折りのB5サイズ)にホクレンの店舗が紹介されていたっけ」と、思い出した。ホクレンであれば、ここの場所が正確に分かれば、最寄りのスタンドの位置が分かるはずだ。僕はスタンプカードを取り出し、今自分がいるのがどの辺りかを確認してみた。一番近いのは豊富町のスタンドのようだった。
携帯電話を取り出し、早速そこへ電話を。
「ハイ、有り難うございます。ホクレン豊富店です!」と店員の紋切り型の応答があったのち、
「あ、もしもし。今、道道106号線の……多分、国道232号線と合流する辺りだと思うんですが、ガス欠しまして……」と、僕は説明した。店員さんは、
「ええっと……そこからだと、ここまで30kmくらいはありますね。もう少し近いところもありますけど、そこでも20kmくらいはありますよ(この辺のやり取りは、かなり記憶が曖昧)」
……とのこと。
恐らくは平坦な道が続くのだろうけど、積み荷を含めると300kg近くにもなろうかという単車を押して20kmも歩くのはちょっと御免被りたい。
「そ、そうですか。では……何か別の方法を考えます。有り難うございました」と言って、電話を切った。

人頼みすべきか

とはいうものの、どうしたものか。
ホクレンのスタンドが無くても、しばらく押していけば別なスタンドが見つかるかもしれないし、本当に20km行かないと見つからないかもしれない。
歩く速度が4~5km/hで、単車を押すとなると3km/h弱か。20km歩くとすると7時間くらいかかる計算だ。それくらいなら、単車を置いて、タクシーでも拾って、1リットルだけでもガソリンを買って戻ってくれば、2時間かからないかも……などと考えていると、僕のいる駐車場に単車が2台やってきた。
「あ、さっきノシャップ岬で見かけた方だ」と、僕の隣に単車をアメリカンの停め、煙草を喫っていた初老の男性であることを、着ている黄色いジャケットを見て思い出した。
もう1台も同じアメリカンだが、もとが何のバイクだか僕にはよく分からないほど改造してあり、二十代くらいかと思われる若いライダーさんが乗っていた。二人は単車を降り、道路に寝そべったりタバコをふかしたりなどして休憩をとっている。親子くらいの年齢差があるように見えたが、父と子という感じではないように思えた。
しばらく僕は彼らの様子を見ていたが、タンクバッグの中に500mlの空のペットボトルがあるのを思い出し、「ちょっとくらいガソリンを譲って貰えないだろうか」と、考えた。
が、それはとても厚かましいことであるし、ガス欠したなどというのはライダーとしても結構恥ずかしいことである。そもそも、自分の不手際で起こったトラブルに、行きずりの人の情けにすがろうというのも、大いにためらわれた。
人頼みするくらいなら、押して行くべきだ。尻拭いは自分でするべきだ。それが当然だ。
しかし……。

カッコ良すぎるお志

「すみません。ガソリンに余裕があるようでしたら、500mlを500円で譲っていただけませんか? お恥ずかしい話なのですが、ガス欠してしまいまして……」
結局僕は、ポッキリ折れて、人頼みの道を選んだ。
500mlを500円というと、通常の10倍程度の値段にあたるが、分けて貰えるなら5000円払ったっていいくらいだった。もっとも、そう言わなかったのは額が大きすぎても敬遠されるかもしれない気がしたからである。
突然近寄ってきて、そう話しかけた僕の言葉に、お二人は驚いて顔を見合わせたが、
「困ったなあ。ワシらもこの先の天塩で給油しようと思っていたんだ。なあ、お前のは入ってるか?」と、初老の男性は若い方に聞いた。
「ああ、あんまりないけど、500くらいなら大丈夫じゃないかなあ」と、お若い方。
「それだったら、分けてやったらどうだ。途中で足りなくなったら、俺のを分けてやるから」
バイクのガソリンは、ガソリンタンクからキャブレターへと伸びているゴムのパイプを外すと、簡単にガソリンを抜くことができる。若い方の単車の方が、そうした作業をしやすそうな構造になっていたので、初老の男性は、残量よりは手間の問題で若い方にそう言ったのかもしれない。
「ああ、分かった」と、若い方は言い、車載工具入れからドライバーを取り出し、パイプを外し始めた。僕の単車だと工具を使わなくてもパイプを外せるので簡単な事と考えていたのだが、斯くも手間のかかることを頼んでしまったかと、すっかり恐縮してしまった。
「有り難うございます!」と、僕はお礼を言い、作業を見守った。かなり改造してある単車に乗っているだけあって、そうした作業も手慣れている感じであった。
ペットボトルは、すぐガソリンで満たされた。僕はそれを受け取ると、
「有り難うございました。どうか、受け取って下さい」と、お若い方に500円玉を渡そうとしたが、
「いや、いいですよ。次にガス欠で困っている人に会ったら、今の分で助けてあげて下さい」と言った。
くーっ、カッコ良いこと言うなあ! そんなセリフを突きつけられては、こちらは何もいえない。

「分かりました。きっとそうします。有り難うございました!」と、僕は深々と頭を下げた。

「じゃあ、行くか」と、初老の男性が言うと、お二人は単車にまたがりエンジンをかけ、僕に左手を挙げて挨拶すると、左折せずに国道232号の方へと走り去っていった。
僕はお二人からは確認できなくなるまで頭を下げ続け、僕の視界から消えるまで、お二人の姿を見送った。
また、人の親切に助けられてしまった。

アメリカンのお二人に助けられた僕は、すぐさま次の給油に望むべく出発しようとした。
が! エンジンがかからない。セルスターターはキュルキュルと音を立てるが、吹け上がってくれないのだ。
「そうか。ガソリンがキャブレターまで浸透するのに、もう少し時間がかかるんだ……」と、僕は想像した。
ガソリンタンクからパイプ(さっきの若い方が外したヤツ)を経て流し込まれるガソリンは、このキャブレターによって霧吹きの要領で気化され、エンジンのシリンダー内で爆発させる仕組みになっていて(この説明で分かりづらかったら何かで調べて下さい)、構造も複雑である。そういう細かい部分までガソリンが行き渡るのにはそれなりに時間がかかるのだ。そして、そんな細かいところのガソリンまで使い切るほどのガス欠だったようだ。まあ、ガス欠とはそういうものだが。

煙草を吸い、15分ほど待つと、無事エンジンはかかった。
500mlしか入っていないガソリンを温存するために、暖機運転もそこそこに、駐車場を後にした。
先ほどのお二人同様、国道232号線へ入ってしばらく行くと、無事ENEOSのガソリンスタンドが見つかった。
「レギュラー、満タンでお願いします」と、僕は言ったが、ド満タンでてんこ盛りに、溢れるほど入れて下さいと言いたかった。
入れたガソリンは14.6リットルだった。あれ? 500ml足しても18リットルにならない……まあいいか。(汗)

戻って読む

次を読む

02年の旅行記のtopへ

旅行記のtopへ

美術館に戻る