便利に毒されし者の北海道おっちょこちょいスケッチ旅行・2002年

ジンギスカン・温泉・缶ビール

8月14日・午後〜夜・妙に綺麗なキャンプ場

それからしばらく、僕らはコンビニエンスストアで買ったお茶を飲みながら、雑談していたが、そろそろ日も傾こうかという時間だったので、この近くでキャンプ場を見つけることにした。

彼女のライダーズマップルを見ながら、現在地を確かめ、「僕は……明日、スケッチをしたいので、水辺が……湖か河の近くのキャンプ場が希望なんですけど……」と僕は言った。お供を見つけて楽しく過ごすのとは別に、キッチリスケッチのことは考えておかなくてはならない。
「わだし、どごでもいいから、それでいいよ」と、彼女。本当に僕と同じくらい無計画な、いや、気ままな旅行をしているようだ。
検討した結果、「剣淵町営桜丘キャンプ場」と言うところが、現在地からほど近く、近くに湖もあるということでとりあえず様子を見ようと言うことになったのだ。
「キャンプ場に近くなればなるほど、買い物は不便になるでしょう。この辺なら大きなスーパーもありそうですから、買い物していきませんか?」
「そうだね。やっとまともなものが食えそう♪」と、彼女は目を輝かせた。そう言えば、遠別の道の駅でも、
「単独ツーリングでキャンプしてたら、ろくなもの食べてないでしょ?」などと聞かれ、「まあそうですが、一応肉野菜炒めとか……作って食べてましたよ」などと返事をすると、「へえ、意外とマメなんだあ。私は本当にロクなもの食べてない」……などというやり取りがあったのを思い出した。
再び国道へ出てしばらく行くと、すぐに大型スーパーマーケットが見つかった。ここなら品揃えも豊富そうだし、どうしても適当なものがない、ということにはならなそうだ。

今度は前にいた僕が合図を送り、駐車場へ入った。駐輪場らしき場所が見つからなかったので、車一台分の区画に停めることにした。
「単車が二台で四輪で、車一台分だから文句は言われないでしょう。……ところで、夕食のメニューは何にしましょうか?」
「そうだね~、肉食べたい。わだし、女の子の友達と焼き肉屋で10人前食べたことある」
「うわ、そりゃ凄い。では、折角北海道にいるのだから、ヒツジでも食べましょうか?」
「うん。そうしましょう。ところで、あんだ、酒飲む人?」
「……ええ、それなりに。というか、かなり……」
「じゃあ、ビールも買って行ご」
「大いに賛成です!」
……というわけで、僕らは焼くだけでよいタレにつけ込んだジンギスカンのパック600gと、肉野菜炒め用の焼くだけでよい野菜のパックと、500mlの缶ビール6本を購入した。
購入した食材は、どちらも一人分には多すぎる量であり、二人だからこそ調達できるわけであって、これまでメニューに悩んできた僕には、何とも有り難いことだと思えた。
“どうせなら北海道らしいものを”というのは、共通の意見だったのだが、ホタテ、エビなどの海産物などを見ても、いずれも二人でも多すぎる量しか売られていなかった。「カップル用・ラブラブホタテ」とか売っていればいいのに。
そんな有り難さもさることながら、女性と二人でこれから食べる食材を買い求めに来るなど、何年ぶりだか思い出せないほど寂しい暮らし向きの僕には、「何が」と言って、「知り合ったばかりの女性と、こうしてスーパーで買い物していること」が、無性に嬉しかった。堂々とこんな事を書くのは惨めな気持ちになるが、その嬉しさには、厳しいまでに“じん”と来るものがあった。
本来の目的とはあまりにかけ離れてはいるが、「北海道へ来て良かったなあ」と、しみじみ思った。

キャンプ場入り

買い物を済ませたのち、僕らは再び国道へ出て、目指すキャンプ場へと向かった。
10分走ったかどうかという所で、国道からキャンプ場へ向かう道へと左折して入り、そこから更に数分ほど行くと、進行方向から向かって左に湖が、右に宿泊施設が見えてきた。キャンプ場はこっちという看板を見つけ、それに従って進み、駐車場へ入って、とりあえず様子を見ることにした。(このあたりの記憶は曖昧)
駐車場から見える湖の景観は、関東近辺でも見られるような感じのもので、正直言って期待はずれではあった。
単独でここへ来ていたとしたら、納得のいく景観の湖を探しただろうが、今は違う。そろそろ暗くなる頃だし、僕の我が儘でもって、彼女に手間をかけるのも気が引けたので、とりあえずキャンプ場の様子を見ることにした。
駐車場から斜面に丸太を組み込んだ急な階段を登っていくと、キャンプサイトが見えてきた。
山の斜面に、段々畑状に作られたサイトは、芝が植わっていて、通路もバッチリ舗装してある。管理棟も水洗トイレもピッカピカだ。何とも綺麗なキャンプ場だが、天気も回復しているというのに、ぎゅうぎゅうに混んでいる感じでもない。ここは、穴場なのだろうか。
綺麗なキャンプ場だし、一応湖もある。探せばスケッチ心をくすぐる景色と出会えるかも知れない。
「ここで、いいですよね?」
「うん、わだしはここでいい」
……と言うことで、管理棟脇の駐輪場まで単車を乗り入れて停め、手続きをし、キャンプ場での注意事項を書いた紙を貰うと、僕らは管理人さんの指示通り、オートキャンプ用のサイトにテントを張った。

やっと聞いた名前

「今日はそんなに混んでないから、オートキャンプ用のサイトを使っていいよ」との事だった。町営のキャンプ場らしいが、お役所然としたところが微塵も無いのが、北海道らしさ……なのだろうか。
管理人さんの話によると、宿泊施設に温泉もあり、宿泊客以外も800円(確か)で利用できるとのことだった。サイトも施設もきれいで、温泉もついているなんて、本格的な(不便な)キャンプを望んでいる人には拍子抜けな、娯楽に徹したキャンプ場と言えるだろう。

テントを張り終えると、彼女はテントの前室にロールマットを敷いて腰掛け、僕は小さな折り畳み椅子に座り、煙草を吹かしながら一息ついた。
「なかなかテントの設営なども手慣れてますね。本当にこういう一人旅は初めてなんですか?」
「そうだよ。でも、集会でなら、何度かキャンプしたよ」
「へ? 集会……ですか?」僕は、リーゼントにツナギを着て、角度の付いたサングラスをかけたお兄さんたちが集まるヤツを想像して、そう聞いた。
「そう。ハーレーのオーナーの雑誌があって、それが主催してやるやづ。あちこちであるから、この間は熊本にも行ったよ」
なあんだ、そう言うことか。
安心した僕は「なるほど、そうでしたか。……ところで、何とお呼びしたらいいでしょうか?」と、ずっと聞き忘れていた僕は、ようやく彼女の名前を聞いた。
彼女は、最初に苗字を言ったが、僕が「下の名前は?」と聞くと、ユミカです」と答えた。

繰り返すようだが、僕は堅苦しいのが好きなので、平素関わりのある人のことを苗字で呼び、身内以外の人のことをファーストネームで呼ばないことにしている。
このとき僕がそこまで聞いたのは、どこの馬の骨とも分からない僕に、うち解けたところを見せてくれているユミカさんに、こちらもうち解けたところを見せたいと思ったからだ。
「では、ユミカさんと呼んだらいいですか? 僕は、梅下と言います。あ、名刺を差し上げましょう」
テントに戻り、裏に僕の代表作がプリントされている名刺を取り出して渡すと、ユミカさんは、
「へえ、こんな絵描いてるんだあ。凄いね。上手だね。まるで絵みてえだ」と言った。
「そりゃあ、絵ですからね。デジカメで撮ってプリントアウトしたヤツですけど」僕は、笑いながら言った。

そんな話をしながら、サングラスをとったユミカさんの顔を見ると、思っていた以上に美人であることに気付いたと同時に、薄いブラウンのカラーコンタクトをしていることに気が付いた。
「あ、カラーコンタクトを入れて居るんですね」僕は、気付いたままに指摘した。
「うん。ふづうのも持ってだけど、コンタクト無くして困ってる友達にあげちゃった」
「……そんな事して大丈夫なんですかあ? ともあれ、僕は視力がとてもいいので、眼鏡をする機会もなくてねえ。カラーコンタクトとかって、ちょっと憧れはあるんですよ」
「ワハハ。あんだがつけても、目細えがら付けてんのわがんねえべ」
「………。(苦笑)」
いやあ、ハッキリとものを言う人だなあ。やはりツワモノだ。
学生の頃、僕はユミカさんと同じ、仙台から上京してきている女の子と付き合いがあった。
彼女は「ハッキリとものを言わないのが、東北人の気質なの」などと時折言っていたし、僕の知人の中の東北地方出身の面々を見ても、それは納得のいく話ではあったが、この人は少々タイプが違うようだ……などと思った。

間もなく僕らは、ストーブや食器を用意し、食事の準備を始めた。

楽しく美味しいジンギスカン

この日の食事。
この日の食事。美味しかったのはタレの味付けや肉の鮮度のためではないだろう。

あとは焼くだけとなったときに、僕らは缶ビールで乾杯した。
僕もユミカさんも、猛烈にお腹がすいていたので、凄まじい勢いでガツガツ食べた。
ユミカさんは「んまいっ!」と、連発しながら幸福そうな表情を浮かべて箸を進めている。
僕は羊の肉を食べたのはほぼ初めてで、クセが強いと聞いていたので、「らしいもの」が食べられればいいやと思っていたのだが、これは本当に美味しかった。羊の肉は、こうしてタレに浸けてあるようなのが、クセが感じられなくて美味しいのかも知れない。
しつこいようだが、女性と2人で、キャンプ場という野外で食べているから、余計に美味しく感じられたこともあっただろう。
「外でうまいもの食べて、ビール飲んで、まるでキャンプみてえだ」とボケるユミカさんに、「だってここはキャンプ場じゃないですか」と、僕はツッコんだ。

時刻は八時頃になっていた。1人3本ずつのビールも600gもの肉も跡形もなくなった。

缶ビールで乾杯するユミカさん。
缶ビールで乾杯するユミカさん。フラッシュを焚かずに撮ったのでブレてしまった。
ジンギスカンを貪る僕。
ジンギスカンを貪る僕。ユミカさん撮影。これもブレてしまった。僕のデジカメはレンズが明るいので大丈夫だと思ったのだが……。

別々に温泉へ

「ねえ、温泉さ入りいご」
食後の煙草を吸い、一息ついたところでユミカさんは提案した。
内心僕は、800円の入浴料は高いなあ(利用料400円の倍……だったと思う。二人分払ったから800円だったかなあ……)と思っていたし、男女の別れている温泉へ別々に入っても何も楽しくないと思ったが、ビールも調達したいし、日焼けも随分治まっているような気がしたし、一人で待っているのはもっとつまらないと思ったので、「そうですね、そうしましょう」と、お供することにした。
温泉のある宿泊施設まで歩いて3分程度だったろうか。その間に、
「ユミカさんは北海道に来て露天風呂に入ろうとか思いませんでしたか?」と、先ほどチラリと頭をよぎった事を質問してみた。
「思った思った」
「と……いうことは、水着とかも用意してきたんですか?」
「持ってきたよ。ビキニだけど」
「ビ、ビキニですかあ? ……なんか露天風呂にはミスマッチな水着みたいな気がしますね」
「だってワンピースのやづ、(恐らく太って)入らねぐなったんだからしょうがねえべさ」
「……そ、そうでしたか」僕は、少々唖然としてそう言った。
自然な男心として、鑑賞するならワンピースよりはビキニの方が有り難みがあるが、露天風呂で混浴しようという女性がビキニを着ていたら、こっちが恥ずかしいなあと思ったりした。そりゃまあ、状況さえ考えなければ、一目で良いからユミカさんのビキニ姿は見てみたい気はしたが。
それにしても、つくづくユミカさんは大胆で開放的な女性だ。そう言うところが見ていて清々しい。きっと単独行動だったにしても、ビキニ姿で堂々と露天風呂を楽しんだだろう。僕の睨んだ通り、ユミカさんは相当なツワモノであるに違いない。
……などと、実現するかどうかも分からないユミカさんとの混浴を妄想しているうちに、宿泊施設に到着した。
ロビーで料金を支払い、2階に上がっていくと温泉はすぐに見つかった。当然、男湯と女湯は別々なので、暫しのお別れである。

滑稽な日焼け跡

『女性の入浴は長い』という先入観があった僕は、
「ゆっくり入ってきて下さいね。この辺の分かりやすい所で待っていますから」と言った。
ユミカさんは頷いて、女湯の暖簾をくぐっていった。

先にも書いたように、僕は温泉が大好きなタイプではない。冷え性でもないし、肩こりもない。友人たちと温泉に行ったことはあるが、一緒に入ったとしても一番先に出てしまう。
『温泉に浸かって何も考えずに、ノンビリと温まるのがいい』というのが、温泉好きの人の考える楽しみ方なのだろうが、何かをしていないと落ち着かないタイプの僕には、それは苦痛でしかない。友人と語らうにしても、一杯やるにしても湯に浸かっていなくても出来ることだし、「蒸し暑い」という要素が加わっては、どちらも満喫できないのが僕なのだ。
さすがに、冬に単車などに乗っていて散々寒い思いをすれば、湯に浸かると有り難みはあるが、入浴そのものに、リラクゼーションとか、楽しみとかという感覚はない。社会に生きる者としての身だしなみとして、最小限の入浴をすれば充分と思っているのだ。
そんなわけで、サササッと頭や顔や体を洗い、じわっと汗が出る程度に湯に浸かり、入浴そのものを終えた。
カランの前の据え付けの鏡を見ると、顔の上半分、肩から腕、そして、出っ張り気味のお腹の上半分だけが赤茶色くなっているのに気付き、唖然とした。それはまるで、制作過程の腹踊りのメイクのようだった。
「学生の頃なら……いや、2年前ならこんな日焼け後にはならなかったのになあ」と、僕は溜息をついた。この見苦しい日焼け跡のまま、露天風呂などに入っては、恥ずかしいのはユミカさんのビキニどころではない。
サロマ湖のスケッチの時に日光浴を楽しみながらスケッチしようとした結果、日焼けで痛い目をみたばかりか、こんなオマケが付いてくるとは。
今後そう会う機会を持てるかどうかも分からないユミカさんに、「滑稽な日焼け跡の男」と認識されたままになるのは辛いものがあるし、今後会うことがあったとしても、日焼けしていない上半身を披露し、名誉挽回できる機会が持てるものでも無さそうだ。
認識以前の問題として、ハッキリとものを言うユミカさんのことだから、僕の日焼け跡を見て、声も高らかに大笑いされそうだ。
「あまり積極的に露天風呂は望まないことにしよう」と、その時僕は断腸の思いで決意した。

湯に浸かりながらそんなことを考えていた僕は、サウナがあることに気が付いた。
湯に長時間浸かるのは好きではない僕だが、サウナにはいるのは結構好きだ。風呂よりも蒸し暑いのが短時間で済む上、沢山汗をかけるし、その後に浴びる水風呂が気持ちいい。如何にも健康のためにやっていることという感覚があるのもいいし、あるところにしかない状況の特殊性も嬉しい。
本来は数分の蒸気浴後に水風呂で冷却するのを数度繰り返すのがいいらしいが、そうまでゆっくりも出来ないので、1行程分汗を出してから風呂場を出れば、ちょうど良いくらいなのではないかと思い、久々のサウナを楽しんでから脱衣場へ向かった。
ところが……男湯の暖簾をくぐると、ユミカさんはとっくに出てきていた。
「ありゃ、待たせましたか?」驚いて僕が聞くと、
「いいや、いま出たとこ」とのお答え。ひょっとしたら、長風呂しては僕に悪いと思って、気を遣ってくれたのかも知れない。サウナは余計だったか、と僕は少し後悔した。

僕とユミカさんは、すぐ傍らにあった販売機で缶ビールを買い、冷房の効いた休憩室で涼みながら、しばらく話をした。
ユミカさんは2、3年前(確か)からバイクに乗り始め、その当時からアメリカンのバイクに乗っていたらしい。乗り始めは日本製の400ccだったそうだ。
オンロードにしても、オフロードにしても、どういう用途で乗りたいかが分かりやすいが、アメリカンに乗るのはどうしてなのかと僕が聞くと、「どうだあって、自己表現できるからに決まってるべ」とのことだった。
まあ確かに、オンロードにもオフロードにも、選んで乗るバイクに自己表現を託したいという気持ちはなくもない。自己表現に徹して単車に乗るというのも、アリはアリだ。
自己表現というところで、ハーレーを選ぶユミカさんは、はやり女傑と言って良さそうだ。

「ところであんだ、ただのデブチンかと思ってたら、意外にプロレスラーみたいな体してるねえ」ユミカさんはそう言うと、タンクトップに着替えていた僕の日焼けの痛みが充分に癒えていない肩をペチペチとたたいた。
「うわ、痛い…っていうか、デブチン…って…」
あまり痛がって見せると、その後も面白がって叩かれそうだったので、努めて表に出さないようにした。それにしても、全くもってハッキリとものを言う人だ。気にしている事をこうもズバズバ言われては、僕も男の名が廃る。「是非露天風呂へ一緒に行って、ビキニ姿を笑ってやろう」と、先ほどの決意はどこへやら、策を巡らせる僕であった。

語り明かす

やがて僕らは、もう1本ずつビールを調達し、テントへ戻った。
僕のガスランタンの光のもと、様々な話をした。焚き火ならもっと良かったのだろうが、ランタンでもそこそこ良い雰囲気だ。そうした雰囲気にのせられてか、お酒の勢いもあってか、話はとても弾み、ユミカさんは随分立ち入ったことまで僕に話をしてくれた。

詳しくは書けないが、現在シングルマザーであるユミカさんのこれまでの人生は、僕にはなかなか壮絶な話であった。情熱的な生き方であり、自分の女性としての感性に正直に、忠実に生きているという印象だった。世に言う、幸せな結婚とか、家庭の安泰とかとは違う形の暮らし向きだと言えるのだろうが、少しも不安や不幸を感じさせない。それは自分の生き方、選択に自信を持って生きているからなのだろう。
一つ歳が違うだけなのに、僕とは随分な違いがあった。僕は僕で、自分の意志によって、普遍的な幸福みたいなものから縁遠い生活をしてるのも事実だと思うが、そこには常に不安や迷いが付いて回っているし、全ては自分一人の責任において、好き勝手にやっていることだ。その辺りの質の違いはハッキリとしていると思えた。やはり、凄い人だなあと僕には思えた。

『北国の女は情が深い』なんて、時々聞く。僕はそれを、男性に対して尽くすタイプが多いとか、文字通り情愛が深いとか、そう言う話なのかと思っていたが、「女性であることに忠実に生きるタイプが多い」ということでもあるのかも知れないと、僕は思った。実際、ユミカさんは「わだしみたいな話、別に珍しぐねえよ」と言う意味のことを言っていた気がする。
あまり具体的に書けないことが多くて、僕の印象は伝わりにくいかも知れないが、貴方の想像力で補足しながら、この辺りは読んでいただきたい。

その後もそれぞれで2、3本は500mlのビールの缶を空けた気がする。
ビールも底をついたので、僕は「バーボンならありますけど」と勧めてみたが、女傑にして酒豪のユミカさんでも割らずにバーボンというのは無理があったようで、飲もうとはしなかった。まあ、予想したとおりではあったが……。
僕のバーボン以外の酒は尽き、夜露というよりは、霧雨が降りてきた。
時間も1時を回ろうとしていた。

どちらからともなくもう寝ようと言うことになり、僕らは各々のテントへ戻った。
テントに戻った僕は、メールの返事を書いたり、バーボンをすすったりしながら、「ああ、楽しい一日だった。思い切って、ユミカさんに声をかけて良かった」と思った。
恐らくは、「昨日まで寂しい思いをしていた」というユミカさんにしても、一杯やりながら語るという、日常(?)を取り戻せて、安心したところもあっただろうし、僕に立ち入った話までしてくれたのは、僕を話し相手として認めてくれたからでもあっただろう。少なくとも僕は、誘いをかけたユミカさんに、不快感や嫌悪感は抱かせずにいられたのではないだろうか。
本来の目的ではないものの、僕は「怖いくらい」幸福な気持ちであった。こんな事があって、このままで旅行を終えられるものなのだろうか? 幸福感の中に、そんな気持ちをチラリチラリと過ぎらせながら、僕は眠りについた。

……本当にそれぞれ自分のテントで寝たってば!