便利に毒されし者の北海道おっちょこちょいスケッチ旅行・2002年

帰途につく……

8月17日・朝・札幌を発つ

ビジネスホテルの快適なベッドで目覚めたはずだが、充分に疲れがとれたという実感はない。
僕の場合「疲れのとれる睡眠」とは、寝具のクオリティの問題ではなく、自分のもの(自分のアパートの部屋とか自分のテントとか)かどうかにかかっているのだなあと、改めて実感する。
そんなわけで僕は、泊めてもらうとか、宿やホテルに外泊するとかは、本当はあまり得意ではない。

ところで、泊まったホテルは、ホテル・ハイランド。Rさんとのコンタクトをすませた後に、時期柄満室の多いホテルの中から探し回って見つけたホテルだ。7000~8000円のホテルでも満室のところが多かったのに、一泊3900円(税別)のこのホテルには空室があったのだ。根気強く探した甲斐があった。部屋の広さなどは値段なりだが、北海道ツーリングに来て札幌で一泊と考える方には、お薦めだと思う。さすがに札幌市内にキャンプ場は無いし。

僕が起きたのは9時頃だった。他の宿泊客もチェックアウトしようという時間帯である。
部屋と単車を停めた場所とを2往復して荷物を運び出し、パッキングをした。恐らくは最後のパッキングとなるはずだった………。

パッキングを終えようかという頃、僕のすぐ近くに単車を停めていたライダーさんが現れ、パッキングを始めようとしている。僕が目礼すると、
「いやあ、今年は(天気が)ダメでしたね」と声をかけてくれた。実感のこもった一言である。
発言から察するに、2度以上北海道のツーリングを楽しんだ方で、天気がダメでない北海道を満喫したこともある方なのだろう。羨ましいなあ。
「そうでしたね。僕は今年が初めてだったんですが、雨には参りましたね」と、僕も実感を込めて言った。

先にパッキングを終えた僕は、話しかけてくれた方に挨拶し、ホテルを後にした。
札幌駅近くの土産物屋で、予算と荷物の余裕の許す限り買い物をした。道中に土産など買っていたら、荷物になるばかりだと思っていたので、最終日の札幌でまとめて購入する予定だったのである。
北海道の名産といえば、やはり海産物や農産物だが、これからまた炎天下のツーリングをする事になるかも知れないことを考えると、当然そんなものは買えない。
僕は、定番の「白い恋人」やバター飴、そして北海道限定と銘打たれたキャラメルなどを購入した。これでも結構考えたのだから、受け取った方々、分かって下され。

餃子カレー

買い物を済ませ、函館へ向かおうとした僕だったが、「ちょっと待てよ」と思った。
札幌在住のネットの知り合い(Rさんとは別の方)から、「みよしの」というカレーと餃子の店が札幌にあると聞いていたのだ。特別素晴らしいカレーとは聞いていなかったものの、チェーン店で、安くて……と、旅行に発つ前に得た数少ない「食」の情報であったし、カレーも餃子も好きな僕としては、独特な取り合わせだと思いつつも、ちょっと立ち寄ってみたかったのである。

市街地をグルグルと探し回ったが、大きな通りに面したところに「みよしの」なる店は見つからなかったので、繁華街のなるべく邪魔にならなそうな場所に単車を停めた僕は、鼻をくんくんさせながらカレーの臭いを求め、運良く「みよしの」を見つけることが出来た。

お昼時に近い時間帯だったこともあってか店内は結構混んでいた。メニューを見ると、餃子定食、餃子カレー……など、餃子とカレーの店と聞いていたとおりのラインナップである。牛丼の値下げ合戦を意識しているのかいないのか、お値段も普通のカレーで280円、餃子一皿(6個)が200円と、随分とお手頃だ。
どうせならどっちも賞味したいと思った僕は、餃子カレー(カレーの上に餃子が3個乗っているやつ。360円)を頼んだのだが……やはり、別々に食べた方が良かったかなあ……と思った次第である。料金設定から考えると、無難な水準だと思うし、札幌へ来たらまた立ち寄ってみたい。
店内が混んでいたこともあって写真は撮らなかったが、読んでいる皆さんが想像するのと大差ないことは保証しよう。
……それにしても、僕の旅行記の「食」はB級だねえ。(汗)

皮肉な晴天

望羊中山の道の駅にて。
望羊中山の道の駅にて。北海道から離れる日にこんな晴天になるとは……。

さあ、もう思い残すことは何もない……といったらウソになるが、それも今更の話。さっさとフェリーに乗らなくては。僕は、国道230号に乗り、函館を目指す。
ホクレンの旗のことを知らなかった上陸直後に通り過ぎた道南エリアだったが、ホクレンのスタンドを見つけたので給油をしておいた。これで、3本目のホクレンの旗をゲットすることができた。この給油で函館までは余裕で到着できる。
昨晩の睡眠が不充分だったのと、いい加減蓄積してきた旅の疲れのため、札幌から50kmちょっとくらいにある道の駅で休憩し、昨日は忘れがちだった旅行記のための写真を撮ったが、デジカメをスケッチ道具用のDパックに入れていることに気づき、慌ててパッキングをほどいた。途中、ネットから外れて転がったロールマットを、見知らぬ観光客に拾って貰ったりなどした。みっともないったらありゃしない。

出発前に、北海道へツーリングに来たライダーさんのホームページを幾つか拝見したが、旅行記をUPするために、文章と写真のバランスを考えて写真を撮って……と考えながら行動するのは、意外に難しいことがよく分かる。やはり旅行のキャリアや、周到な計画あってなせる業なのであろうと思える。
写真を撮ったのち、僕は今度こそと腹をくくり、函館を目指した。夕方頃の到着になるだろう。
それにしても、北海道の滞在の最後の日に、皮肉なまでの晴天であった。

その後は、ずーっと230号線を南下し、やがて5号線へ。
来るときは闇夜で見えなかった海が左手に見える。道はなだらかなカーブが続き、走っていて気持ちいい。正統派ライダーさんが、早朝から起きだして走り回ろうとする気持ちが、今更ながらよく分かる。やはり北海道にはこんな気持ちの良い道路が沢山あるのだから、夜中に走り続けるのは愚の骨頂なのだろう。次来ることがあるとしたら、もう少し景色を楽しみながら走る機会を増やしたいものだ。

青森ではなく大間へ

フェリー待ちしているときに撮影。
フェリー待ちしているときに撮影。いやあ、疲れてました。

そうこうしているうちに、函館へ到着。18時前くらいだったと思う。
函館からは、青森行きと大間行きのフェリーが出ている。
僕は考えた。
多くのライダーは、少しだけ運賃が高いものの、すぐに高速に乗れて、便数も多い青森行きを選ぶ。フェリー乗り場には、既に何十台もの単車が並んでいたので、一便や二便の見送りは必至だろう。
下北半島の北端にある大間行きを選択すると、運賃は少々安いものの、百何十キロか国道を走って、ようやく高速に乗れる。
青森行きに乗れば3時間40分で、大間行きなら1時間40分で、航行時間に2時間の差がある。大間から国道を走ったとして、高速に乗るまでに2時間あれば高速に乗れるだろう。
一方、青森行きに乗ろうとした場合、フェリー待ち時間に何時間費やすやら分かったものではない。上手い具合に大間行きは小一時間も待てば乗れる19:00の便がある。もしこれに乗れれば……と思った僕は、大間行きのキャンセル待ちの短い列に並び、「19:00の便、乗れるでしょうか?」と聞いてみたところ、「多分大丈夫だと思いますよ」とのお答え。

フェリーの待つ間に食べた茹でたトウモロコシ(200円だったかなあ)。
フェリーの待つ間に食べた茹でたトウモロコシ(200円だったか?)。「ゆできみ」と書かれていたが、「きみ」とは黍(きび)の、この地域の呼び方か?
決まりだ。僕は大間を目指すことにした。きっとその方が時間的なロスは少ないはずだ……僕は、安易にそう考え、キャンセル待ちの手続きを済ませた。
だが、もし大間行きの便がもっと混んでいれば……。
もし19:00なんて、まさしく「渡りに船」な便が無ければ、このあとに待ち受ける出来事と遭遇しなくて済んだはずだったのだが……。

大間に到着し最後のイベントへ

フェリーの中の愛車。
フェリーの中の愛車。こんな感じで固定される。写真はブレてます。

お盆休みは18日まで。順調に東京に着いたとしたら、18日の午前中には東京へ戻れるはずのところを、何故分秒を惜しむかのようにしているかというと、僕にはもう一つ、この旅の中にイベントを組み込んでいたからである。
僕には、大学の同期で、今も近所に住み、今最も親しくしているTカハシ君という友人がいる。彼は岩手県の水沢市出身で、今丁度帰省している。数年前に僕の鹿児島の実家に招いたこともあったし、旅行の前に「今度は僕が実家へお邪魔するよ」などと話をしていたのである。つまり、Tカハシ君の実家訪問が最後のイベントだったのである。
このまま水沢市へ向かうと、非常識な時間帯の訪問になってしまうのは承知だったが、極力早く到着できるようにしたかったのである。
急いではいても、あと数十分の待ち時間はあるので、まずはTカハシ君に「0時を過ぎる時間になるけど構わないか」と連絡を取り、その後、各方面に大間行きのフェリーに乗れそうだと連絡を取った。
ユミカさんにもメールを送ったが、《あたしのキャンセルあげるすか 今日の7時半くらいの》(キャンセル待ちの番号を譲ろうかという意味)と、すぐに返事が帰ってきた。ユミカさんは昨日のうちに本州に渡り、青森に住む友人宅へ遊びに行っているそうだ。
お志に胸打たれる思いだったが、その必要は無さそうだった。その旨を返事し、僕は間もなくフェリーに乗り込んだ。それにしても、気ままな旅をしているように見えていたし、直前まで北海道行きを迷っていたというユミカさんだったが、フェリーの予約は二重三重にとっていたなんて、意外と周到に用意していたんだなあと、感心した。

1時間40分という短い航行時間では、仮眠を取るにも短すぎる。船室も一杯だったし、僕はデッキにある50~60人分あるうちの樹脂製の椅子の1つに腰掛けて、到着を待った。
日本でもうんと東に位置する北海道の日没は早く、出航する頃には函館の夜景がささやかに見えるだけで、北海道を後にするという感慨はあまり無かった。
潮風に当たりながら、誰と話をするでもなく、少しだけウトウトしたかと思ったら、到着のアナウンスが流れ、ほぼ予定通りの9時前には下船できた。
大間は、単車で走っていれば気にはならない程度の霧雨が降っていた。

最大の危機

さあ、急がなくては。親しい間柄とはいえ、深夜の訪問にも限度があるし、実家である以上Tカハシ君のご家族もいらっしゃるはずだ。余りにも遅くなるようなら、訪問を見合わせるという選択肢もあり得るが、出来ればTカハシ君宅で、とれるものなら休養も取りたい。
いくぞお……と思った僕は、しばらく走ってから愕然とした。雨が本降りになりつつあったのだ。
札幌から函館まで向かう間、皮肉なまでの晴天だったので、雨が降ることなど全く予想していなかった。むしろ、もう雨は終わった……くらいに考えていたのだと思う。
合羽も専用の袋の中に入れてしまっていたし、荷物にシートもかけていない。僕は、急いでいるときに降り出した雨に、落胆するというよりもすっかり動揺していた。
とりあえず単車を停めた僕は、慌てて荷物をシートで覆い、レインウエアを上下とも着用した。雨の多かったツーリングで、その辺はテキパキと対処できた。そこまでは良かった。僕はもう1つ大変なことに気がついたのだ。
「給油しなくちゃ!」
トリップメーターが250kmに差し掛かろうとしていたのだ。
道道106号でガス欠したときは、340kmくらいでガソリンは空になった。あと90km走るうちに給油しなくては、オロロンラインと同じ事が起きる。
函館に着いたときに、さすがにガソリンの残量は気にはなっていたが、フェリーが着くような港の周辺に、ガソリンスタンドが無いわけはあるまいと高をくくっていたのだ。

ところが、行けども行けども、営業中のガソリンスタンドは見つからない。無いことはないのだが、時間が9時を過ぎているためか、どの店も閉まっていたのだ。

港から30kmほど行ったところだったか、ちょっと落ち着こうと思った僕は、明かりに引き寄せられるようにしてコンビニエンスストアに立ち寄った。温かい飲み物と、走行中の眠気防止に備えてガムを購入した僕は、煙草を吸って一息ついた。駐車場には、恐らく僕と同様に大間港から来たであろう3人組のライダーさんの姿があったが、疲労もピークに来ていたので、話しかける気力もなく、僕は黙々と煙草を吸い続けた。
このコンビニエンスストアは国道279号線と338号線が交差する角にあり、右へ行くとむつ市街へ出られると補助標識に書かれていた。
地図を開いて改めてルートをチェックすると、最短最速ルートを考えるなら、青森まで回って行くよりも、八戸から東北自動車道へと続く高速を使った方が良さそうだった。青森から高速に乗るなら、今まで通ってきた279号線を走り続ければ良いのだが、八戸へ行くには338号線に乗り換えるべきだ。
「よし、338号線だ」僕はそう決め、再び単車に跨った。ここで僕は、2つの過ちを犯していた。

338号線に入ってはみたものの、やはりガソリンスタンドはどこも閉店している。それどころか、道路を照らす街灯も無くなり、どんどん山道になっていくようだ。
「完全に道を誤った……」と、僕は思った。まさかこんなに寂しい山道になっていようとは。
かといって、ガソリンの残量はあとわずか。引き返したからといって、ガソリンが尽きる前に給油できる保証はない。
僕は焦りまくった。この山道が、唐突に開け、繁華街に出ることをひたすらに祈り続けたが……。

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