便利に毒されし者の北海道おっちょこちょいスケッチ旅行・2002年

最後の目的地へ

8月18日・朝・給油後の再出発

ようやく写真を撮る気になって二本柳給油所を撮影。
ようやく写真を撮る気になって二本柳給油所を撮影。
2枚の画像を見ると、「本日定休日」と書いてあるのに給油機の電源が入っているのが分かって頂けるだろう。
2枚の画像を見ると、「本日定休日」と書いてあるのに給油機の電源が入っているのが分かって頂けるだろう。

携帯電話に、最後の力を振り絞って貰うつもりで、セットして置いた目覚ましで、5:50分に僕は目を覚ました。
テントを抜け出してみると、まだ小雨がパラついていて、蓄積しまくっている疲れを増幅させるかのようだ。
ここからさらに700km近く走らなくてはならないかと思うと、げんなりするのを通り越して、危機感すら感じた。
順序から行くと、給油→撤収→出発 と行きたいところだが、撤収は少しでも早く済ませたいので(近所の方の目が気になるし)、片づけられるものは片付けながら、ガソリンスタンドの店主さんが現れるのを待った。

「あ! あれか?」
白い車が近づいてくる。やがて車はガソリンスタンドの前に停まり、50代くらいの男性が車から降り、閉店中に人が立ち入らないように張ってあったロープを片付け、車を乗り入れた。
「済みません。夕べお電話差し上げたものですが」
店主さんだと確信した僕は、道路を渡って話しかけた。
「ああ、どうもお待たせ」と、店主さんはにこやかに答えてくれた。
「本当に、ご迷惑をお掛けします」
「いやいや、犬の散歩もあったからねえ」
なるほど、車の中には立派な大型犬が鎮座している。
「まさか、フェリーを降りてから給油できないとは思っていなかったので……。どこも閉まっていたんです」
「そうでしたか。東京からですね。これから帰るの? 大変だねえ」

……などと会話をしている間に、店主さんは給油機の電源を入れ、迷惑そうな顔一つせず、給油を済ませてくれた。
僕は、とりあえずは正規の料金を支払い、店の戸締まりをして、車からお犬樣を連れ出して散歩へ向かおうとする店主さんに、
「有り難うございました。本当に助かりました」と、深々と頭を下げて見送った。
店主さんは片手を上げてそれに答え、小走りに散歩のコースであろう方へ姿を消された。車でガソリンスタンドまで来て車を停め、その後散歩をされるつもりだったようで、給油機には電源が入ったままになっていた。
店主さんの姿が視界から消え、直立姿勢に戻った僕は、やっとこれで先へ進める……という実感が湧いてきた。
僕は、せめてものお礼……と思い、持っていた財布から千円札を一枚、鍵のかかったドアに挟んでおいた。こうしておけば、次にドアを開ける確率の高い店主さんに、僕が置いていったものと察して受け取ってもらえるだろう。
こんな形でお礼をすることにしたのは、支払いの時に渡そうとしては、受け取ってもらえないのではないかという気がしたからであった。

僕は、給油を終えた単車をそのままスタンドの敷地内に停めて雨を凌ぎつつ、テキパキとテントを片付け、パッキングを済ませた。

これで出発と行きたいところだが、もう一つ忘れていることが……。

僕は、昨晩お世話になった警備員さんにもお礼を……と思い、プレハブの前まで行き、同じように……と思ったが、財布の中の千円札は、給油所のドアに挟んだ分で尽きていた。
むわ、何という間の悪さ……。
(仕方ない。これで許して下さい。でも、込められた気持ちは千円以上のつもりです)と思い、ガソリンスタンドの脇にあった自動販売機で烏龍茶を一本、残っていた小銭で購入し、ドアの前に置いておいた。僕が寝ている間に交代の人が来たわけもあるまいし、交代に来た方かご本人が気づいて、僕が置いていったものと察して、受け取ってくれるだろう。

さあ、今度こそ出発だ。これから先も長い道のりだが、もう絶対にトラブルは起こすまい……そう誓って、僕はエンジンを始動させた。

パラパラと降る雨の中、僕は八戸の高速の入口を目指してひた走った。
昨晩、警察の方から聞いた消防署もチラリと目に入ったが、今となっては気にするべくもない所だった。

国道338号線を走り続けたが、本当にここは国道か? と思うほど細くて曲がりくねった道となり、ひょっとして道を間違えたかと思ったりもしたが、単車を停めて通りすがりの方に声をかけると、国道338号であることは間違いないようだった。色んな国道があるものである。

八戸を目指して国道をひた走ったが、雨は降り続いている。北海道を走っていたときほどとは思えないが、やはり冷え込んでくる。
八戸までは100km弱、八戸から、岩手でも南部にある水沢までは120kmくらいだろうか。北海道も広かったが、岩手県もなかなか広いなあ。
原発で有名になった六ヶ所村や三沢市など、記憶にある地名を通過しながら、国道338号線を走り続けた。ライダーハウスで一緒だったエリミネーター400の方が、「六ヶ所村は風景が独特だから見ておくといいですよ」と言っていたのを思いだしたが、ガス欠のせいで時間を大きくロスしてしまったので、寄り道せずに通過した。

「じゃがバター」……とかいう名前だったか(確か250円)。
「じゃがバター」……とかいう名前だったか(確か250円)。北海道へ来たらこれを食べなきゃね。(食べたのは岩手山S.A.)

やがて八戸の高速入口へ到着。高速に入ってしまえば、一安心だ……と、そんな気持ちを象徴するかのように、雨足も弱まってきた。
ちょっと一息入れ、Tカハシ君に連絡を取っておきたいと思った僕は、八戸から100kmほど走った岩手山のサービスエリアへ。
ちょっと小腹も空き、ブランチをとっても良さそうな時間だったが、水沢に到着するのはお昼頃。Tカハシ君の母上が何か用意して下さっていたとしても、Tカハシ君が、僕と昼食を取ろうとしていたとしても、今しっかり食べるのはまずい……と思った僕は、軽いものを食べようと決めた。で、右の画像の「じゃがバター」を頂いた。
じゃがバターという割には、ジャガイモに挟んであるのはマーガリンである。店のお兄さんが、一斗缶に入ったマーガリンを、お好み焼きを焼くときに使うような金属のヘラでガッポリと取り、ジャガイモに挟み込んで作っていた。実を言うとマーガリンがあまり好きではない僕だったが、北海道の彷彿とさせる取り合わせに、思わず購入してしまった。食べ始めはなかなか美味しいと思ったが、マーガリンがすっかり溶けてしまったあとは、液化マーガリンにジャガイモが沈んでいるといった風情に……。ちょっとマーガリンが多すぎじゃないっすかあ?

……と、相変わらずB級な食を済ませた後、Tカハシ君へ「あと一時間半後には水沢に着きそうだよ。着いたらまた電話するよ」と、携帯の電池が切れかかっていることを補足して、短めに連絡を済ませた。
曇ってはいるものの、雨は止んだので、まだ濡れているジャケットを乾かすためにも……と思い、合羽をネットに挟み込み、いざ出発! ガソリンもまだもちそうだ。

昼・初めて降りた岩手県

実家のTカハシ君。僕とは対照的にテンションが高かった。
実家のTカハシ君。僕とは対照的にテンションが高かった。

カハシ君に電話で説明したとおり、一時間ちょっとで水沢の出口を降りることが出来た。行きは、初めて来たものの、通り過ぎた岩手県であって、一般道に降りるのも初めてである。一時間も高速を走ったお陰で、ジャケットも充分に乾いた。
先ほどの電話で「水沢の駅を目指してくれ」というTカハシ君の指示の通りに水沢駅を目指した。
途中で、案の定道に迷いかけたが、何とか水沢駅前にたどり着いた。さすがに岩手県で曇天とはいえ、フライトジャケットを着ていると、やはり八月なのだから蒸し暑い。「これが普通の夏だよなあ……」と思った。
電池よ、何とかもってくれ……と思いながら、Tカハシ君に携帯から電話をし、駅前に着いたことをしらせると、数分後に彼は現れた。
「やあやあ、良く無事だったねえ!」と、いつもにもまして元気良く挨拶をするTカハシ君。今も近所に住んでいる友人と、自分の出身地で再会できたという気分の高揚がこちらにも伝わってくる。……が、
「いやあ、参ったよ……。予定がコロコロ変わって悪かったね」と、平素の40%程度のローテンションな僕は、お腹から出ていない声で相槌を打つ。正直言って、こうした特殊な再会を、抱き合うようなテンションで喜べる状況ではなかった。

深夜の幕営と反省

「まあ、とにかくウチへおいでよ!」と、言ってくれるTカハシ君について、のろのろと単車を走らせてついていく。とても大荷物の単車を押していく気にはなれなかった。
数分ほど行くと、Tカハシ君の実家に到着。隣同士だった頃に、一度お目にかっかったTカハシ君の母上と、恐らくは十年以上の隔たりを経て再会したが、何やら御用とのことで外出された。まあ、再会したからと言って何を話すでもないのだけれど……。
その後、僕とTカハシ君は、お互いお腹が空いていたので、昼食を取ることにした。
「水沢ならではの食事とかって、この辺にはないの?」と、徒歩で食事をとれる場所を探しながら僕は聞いたが、
「いやあ、特別そういうのは無いねえ」とのこと。まあ、行く先々に土地ならではの名産である食べ物があるものでも無いだろう。
何にしても、ジャスコなど大きなショッピングセンターがあったりなどして、Tカハシ君との長いつき合いの中で聞いていたよりも、水沢は開けているなあと思った。僕の住んでいた鹿児島の実家などは、団地というか住宅地というか、そんなロケーションであって、駅が近くにあるわけでもないが、とりたてて不便でもない中途半端な田舎である。
「俺の同級生がやっているカレー屋さんがあるけど、そことかどう? カレー好きでしょ?」
と、Tカハシ君が言うので、
「いいねえ。カレーを食べれば元気が出そうだ」と、僕は答え、そのお店へ向かうことに。水沢にこんなお店が……と思っては失礼だが、それほど本格的なカレー屋さんで、ランチセットをオーダーすると、食べ放題で飲み物もお変わり自由……みたいなシステムになっていた。カレー自体も、凄くキチンと作ってある感じであった。
「同級生は今お店にいるの?」と、カレーを食しながら僕が聞くと、
「ああ、さっき見かけたよ」と、Tカハシ君。
「? 挨拶とかしなくていいの?」と質問を重ねると、
「同級生だったのを知っているだけで、かろうじて彼がそうだと分かったくらいだし、向こうも挨拶されても俺が誰だか分からないかも知れないからいいよ」とのこと。タハハ、そうでしたか。でも、立派なカレー屋さんでした。写真は撮り忘れたけど……。

食事を終え、Tカハシ君の実家へ戻る途中も、彼と僕とのテンションの差は歴然で、
「折角Tカハシ君の地元に来ているというのに、ローテンションで申し訳ないねえ」
と、言わざるを得ないほどであり、Tカハシ君も、
「疲れてるのは見れば分かるよ。まあ、ゆっくりして行きなさい」
などと言ってくれるほどだったのだ。
Tカハシ君の実家へ着き、飲み物などを出して貰いながら、僕もしばしの休息をとらせて貰った。

僕の方は、スケッチがどうだったかや、ユミカさんとの出会いなど、道中の出来事を余すところ無く話し、Tカハシ君も実家に居ることもあってか、彼の幼少の頃の話などを話してくれた。僕が十代の頃からの付き合いの彼だが、いつもと違う場所や状況で話をしてみると、今までしなかった話も出てくるものなのだなあと思え、感慨深かった。

絵に描いたようなセルフタイマーによる失敗写真。
絵に描いたようなセルフタイマーによる失敗写真。
Tカハシ君の親戚に撮影をお願いした記念写真。長いつき合いの彼だが、こういう2ショットは結構珍しかったりする。
Tカハシ君の親戚に撮影をお願いした記念写真。長いつき合いの彼だが、こういう2ショットは結構珍しかったりする。

ひとしきり話をし尽くし、その後僕は、
「折角、ここで会ったところをなんだけど、1時間ほど仮眠を取らせてもらえないだろうか。このまま出発しては、無事に帰り着く自信がない」と、Tカハシ君に請い、
「じゃあ、二階で寝たらいいよ。1時間後くらいに起こせばいいのね」と、彼は僕が寝るとなかなか起きない男であることを良く知っている。
「そうして貰えると助かる。一応携帯の目覚ましで起きるようにはするけど……あ、ついでに充電させてもらえるかな。本当に電池が切れそうだから……」
「それはいいけど、1時間の仮眠で大丈夫かあ?」
「大丈夫だよ。長居するのも悪いし、早く帰りつきたいのも事実だからね。体力回復のための仮眠は短い方がいいんだよ」と、僕は苦笑して言った。
で、2階へ案内され、僕は暫し夢の中へ……。

あっと言う間の一時間が過ぎ、僕の携帯電話の目覚ましが鳴り、Tカハシ君が現れ、僕に起きろと声をかける。
「ああ……大丈夫、もう起きるよ。出発しなくちゃ」と、元の声量を取り戻すくらいの休養はとれた。
出発前に、記念撮影を敢行したが、フラッシュをオフの設定にして撮ろうとしたところ、見事に失敗した……のが上の写真である。
実際、セルフタイマーなんて使う機会は滅多になく、何度も撮り直すのもTカハシ君にも悪いと思えたので、たまたまいらっしゃったTカハシ君のご親戚に撮影をお願いし、無事Tカハシ君宅来訪祈念の写真を撮ることが出来た。

その後間もなく、「じゃあ、また東京で! 世話になったね」
「おう。本当に気を付けて!」
「大丈夫。きっとまた向こうで一杯やれるよ」
と、挨拶を交わし、撮影をお願いした彼の親戚にも改めてお礼をいい、僕は再び高速入口を目指した。

続く試練

そろそろ日没が近づく時間になっている。最後の目的地を後にした訳だが、本当の最後の目的地は僕の住むアパートの部屋である。
水沢の入口から2時間くらいは、休養の効果もあって順調なライディングを満喫できたが、蓄積している疲労は、三十半ばを過ぎようとしている僕の回復力では解消できたものではなかった。
やがて、雨が降り出し、急いで最寄りのパーキングエリアへ入り、合羽を着用する。「また雨かあ」……と思うと、疲労感も倍増してくるようだ。
その後も、雨足は強まり、まとわりついて来るかのような疲労感と睡魔と闘いながらのライディングとなった。所々で渋滞も始まっている。傷だらけのシールドのせいで視界が悪いのも影響してか、頭がぼーっとしてくる。僕は元々細い目をうんと細めて、シールドを上げたまま走り続けた。その方が、雨が顔に当たるのでいくらか眠気を防げる……気がする。

福島だか茨城だかの辺りだったかと思うが、渋滞が途切れ、しばらく高速道路らしい速度で走っていると、またもや車の流れが悪そうな雰囲気になっているのに、ぼわーっとした意識ながらも気が付く。この先に出口でもあったか? と思って走り続けると、それは事故によるものであった。しかもそれは、単車が絡んだ事故であった。

目撃した単車の事故

通りがかりに認識できた範囲では、250ccのカウルの付いていないバイクのようだった。
木っ端微塵……なんて、良く耳にする言葉だが、こういうことを言うのだな、と思うほど大破した単車が、路肩に横たわっていた。一気に眠気も吹き飛ぶほどショッキングな光景だった。
パトカーなどが既に到着していて、事故からそれなりに時間が経っている様子だったため、その単車に乗っていたはずのライダーの姿はなかった。
単車の事故の場合、何かにぶつかったとしても、ライダーはぶつかった付近に取り残され、単車だけが遙か彼方へ飛んでいくこともあり得るが……単車の状況から、出ていた速度は察しが付く。ライダーも無傷ですんだとは考えにくい。
北海道へ向かうときの高速道路でのことを、「水の中にいるような」なんて、呑気なレポートなどしていたし、「高速に乗ってしまえば一安心」などとも書いていた僕だが、高速道路で事故を起こすと十中八九無事ではいられないし、単車だって全損してしまうくらいが自然だ。確かに高速道路の方が安全な部分もあると思うが、出ている速度のことを忘れてはならない。単車で高速を走っていれば、誰もが平等に、今見たような事故にあう可能性があるのだから。
とにかく、あのライダーには軽傷で済んでいて欲しい……と思いながら、僕は慎重なライディングを心がけた。

……などと思いつつも、種々の刺激が、極度の疲労や眠気に対して効果を持つ時間はやはり短い。
一刻も早く帰りたい気持ちを抑えて、僕はサービスエリアおきに休憩を取った。
駐輪場には、恐らくは僕と同じく、北海道から帰ってきたのであろうライダーたちが休養を取っていたが、皆が精気を失っていて、生きた人間の顔をしているように見えない。勿論僕とて彼らからは同じように見えたことだろう。
そんなことを繰り返しながら、北関東エリアに入り、長い休憩も兼ねて、そろそろ食事をしようと、上河内のサービスエリアに単車を乗り入れた。とりあえず僕はトイレへ行ったり、煙草を吸ったりしていたが、僕のすぐ脇に単車を停めていたライダーが、僕に話しかけてきた。二十代後半から三十くらいまでの歳にみえる男性だった。彼の単車にもホクレンの旗が付いていたので、同じ陸走派だという親近感があってのことだったのだろう。
「さっきの事故、見ましたか?」
「ええ。凄く大破していましたね。確か……250の、ホーネットかバンディッドに見えましたが……」
「そうでしたか。そこまでは分かりませんでしたが……無事だといいですね。僕らも気を付けないと……」
「本当にそうですね。あんな目にあった彼のためにも……」と、僕は付け加えた。

ひと休みしつつ旅の終了作業

そんな会話を交わしたのち、僕はレストランへ入った。正直言って、今となっては何を食べたか思い出せないし、記録も残っていない。ぼんやりと思い出されるのは、食べれば元気が出そうなものを食べ、「最近はマシになった」と言われるサービスエリアの食事だが、他で摂る食事を考えると、まだまだ高いし、イマイチだなあ……と思ったことくらいだったか。そんな感じだったので、写真も撮っておりません。
滋養と休養を取った僕は、幾らか元気になり、Tカハシ君のお陰で充電できた携帯電話で「何とか無事に帰れそうだ」と、2、3人の知り合いに電話やメールを入れ、改めて出発した。

その後も、雨に渋滞……という最悪のコンディションの中、こまめに休憩を取りながらライディングを続けていたが、関東に近づけば近づくほど渋滞はひどくなり、高速道路らしい速度で走れない。予想していたよりも随分と時間がかかってしまった。
やがて、無事に高速を降りることが出来たが、それからますます雨足が強まった。その雨の強さといったら、この旅で最も激しいくらいの豪雨であった。
「ヤレヤレ、最後の最後まで雨かあ。本当に雨の多い旅だったなあ……」と、僕はヘルメットの中で呟いた。

そして……とうとう自宅へ到着。もう日付が変わっている時間であったが、何とか生きて帰り着けた。
降りしきる豪雨の中、僕はパッキングを解き、水のたまったエンジニアブーツをグシュグシュいわせて荷物を部屋に運びながら、
「便利に毒されたおっちょこちょいなスケッチ野郎の旅には、相応しい終焉かも……」などと思い、苦笑した。
ゆっくりと休養を取るヒマもなく、僕はまた明日から便利が渦を巻く、雑多な東京の生活に戻るのだなあ……と思うと溜息が止まらないが、それを補って余りあるほど色んな経験を出来た旅であった。
このスケッチ旅行で得た経験が、この歳になった僕をどれほども変えてくれるようなことは無いのかも知れないし、新たに悟りを開けたようなこともないかも知れないが、描いたスケッチも含め、いろんな人との出会いや、いろんな経験は、僕にとって一生の宝物となることだろう……と、僕は思いながら、暫しの床についた。

……あと10時間ちょっとで仕事だよ。トホホ。

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総括 旅行のデータと反省点

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